BACK 朝のケネディーパーク

 夕方のショッピングセンタ−は昼より賑やかだ。ガラス張りの天井から、帆船のフロア−を明るい太陽光が照らしている。奥の食料品ス−パ−の入り口に来た。手押し車と篭が並べられている。この店は唯一の大型店のようだ。中年婦人が多いが混雑まではしていない。入り口付近は、キャベツなどの生鮮野菜とバナナなどの果物が並んでいる。全て色つやがよく新鮮で、品数も量も豊富である。店全体の照明が、黄白色の間接照明になっている。日本のスーパーのように、裸の白色蛍光灯が「ぎらぎら」していない。果物類は日本と変わらない。しかし、野菜類や芋類は見たことのないものもある。形は長めの瓜で、表面がスイカのように「縞模様」の付いたものもある。赤色と黄色のパプリカが日本よりはるかに安い。奥に食品専門店がある。肉店はガラス製の陳列ケースの中にハムやソ−セ−ジ、ステーキなどが並べられている。ハムはお総菜に加工されたのも売られている。陳列ケースの向こう側で、若い「白衣」の女性店員が、「エレベ−タ−ガ−ル」のようなモダンな服装と粋な帽子を被っている。
 
 「ハムは2〜3切れでも買えるんですか」と聞くと、「もちろんです。何枚お入れしましょうか」と聞いてきた。「3枚お願いします」と言うと、彼女は透明の手袋をして袋に入れた。肉屋さんの奥にジュ−スや缶ビ−ルのコ−ナ−がある。冷蔵庫の中で冷やされたギネスのカンビ−ルが見えている。心の中で「よかった。よかった」と呟きながら2本を篭の中に入れた。ホ−ルの中央に、冷蔵設備のされた大きなステンレス製の容器がある。容器は一列が四つのコ−ナ−に仕切られている。中にポテト野菜サラダなどのお総菜がある。客はスプ−ンで好みの物を備え付けの小さな容器に入れている。ここだけは、横に中年の女性店員が一人いて、客からお総菜の入った容器を受け取り手際よくパックして小型レジの上に載せている。レジから、重さと値段が印刷されたレシ−トが打ち出されてくる。彼女はそれをパックの上に張り付けて、再びそれをお客に戻している(全て出口のレジで精算)。陳列内のサラダは鮭、イカなどのシ−フ−ド、薄切りのハムの入ったもある。シンプルなポテトサラダを、彼女に手渡しした。一番奥に大きな鮮魚屋さんがある。白い割烹着を身につけた男が一人、陳列台の後ろに立っている。時々、彼は客に威勢のよい声を掛けている。売り方も姿も、日本の「魚屋のおっちゃん」とそっくりだ。魚の並べ方も日本と同じだ。大阪の黒門市場で鮮魚を買っているようだ。「旦那、新鮮だよ一つどうだ」と元気の良い声が投んで来た。

丸顔の元気のいい「おっちゃん」だ。「鮮魚は買えないが、そのスモ−クト・サバは、そのまま食べれるんですか」と聞くと、「もちろんだよ。うまいよ」と言った。「明日それを買いに来るよ」と言った。Uタ−ンして出口の方に向かった。前方に出口兼レジ台が見えている。通路際に菓子やインスタント製品が並んでいる。日本製品は一つもお目にかかれなかった。4台のレジが並んでいる。客も彼女たちもせかせかしていない。日本のス−パ−ように、買い物客の疑心暗鬼に満ちた目が、値段を打ち出すレジの表示板を、冷たく凝視する光景は見られない。レジを済まして外に出た。5時過ぎの街は強い日差しはもうない。いつものように、多くない車と人がゆったりと流れている。車のクラクションもダブリン同様一度も聞いたことがない。パトカーや警察官の姿は見た事がない。正面のグレイト・サザーンの玄関前は、さすがに昼間より人の流れが多い。タクシ−も頻繁に玄関前にで客を降ろしている。目の前の公衆電話が3台とも使われている。若者がデイトの約束でもしているようで、楽しそうな顔で話している。電話ボックスのガラス窓に、一枚の「テレクラのカ−ド」も貼られていない。本当に心が休まる。公園のタクシー乗り場に向かった。